通称名で生きるために

通称名で生きるために

Share:


written by 小嶋 小百合


私は還暦を過ぎてからホルモン治療を始め、現在、すでに高齢者の域に入ってしまいましたが、まだ戸籍の名前、性別ともに生まれた時のままです。
私の通称名「小百合」は生まれて初めてメイクをしてもらった日に「名前を付けなきゃ」と言われて、とっさに思い浮かんだ吉永小百合さんからいただきました。
それ以来、現在まで「小百合」を名乗っています。

トランスジェンダーの人の多くが名前で苦労されているように、私も病院での診察を始め、戸籍名を使わざるを得ない場面でいろいろイヤな思いをしてきました。
「戸籍を変えればいいのに」とアドバイスしてくれる当事者の方もみえますが、テレビで活躍中のはるな愛さんが「大西賢示でいることが親孝行」という理由で戸籍名を変えていないように、何らかの理由で通称名で生活している当事者の方はたくさんいます。
私も、いずれ戸籍変更するにせよ、今は通称名で暮らすと決めています。
そこで、通称名で女性として暮らすためにも、普段の生活で極力イヤな思いはしたくないので、今の日本で女性として通用することがどれだけあるかできるだけ調べて、対応してもらえるものは対応してもらうよう努めてきました。

まず最初にお願いしたのが健康診断です。
毎年健康診断を受けている市民病院に事情を書いて更衣室のことを相談しました。初めてのことなので返事が来るまで不安でしたが、とても好意的に受け止めていただいて、その年はカーテンで仕切られた場所で、次の年からは別室を用意していただいてそこで着替えをしています。

次に取り組んだのは健康保険証です。
実は厚生労働省から2017年8月31日付けで「性同一性障害と診断された人が日常で使う『通称名』を、健康保険証の氏名欄に記載することを認める」という通知が全国に出されていたのです。
そのことを根拠に、健康保険証の記載名を通称名に変えてもらいました。しかし、事はそんなに簡単ではありませんでした。
私の健康保険証は全国健康保険協会、通称「協会けんぽ」なのですが、最初「協会けんぽ」に電話した時は「年金事務所で聞いてほしい」と言われ、年金事務所に電話すると、「戸籍は変えていない」と断ったうえでお願いしているのに「戸籍謄本を提出してください」と言われ、事情をよく説明すると今度は「協会けんぽに電話してください」と言われて、たらいまわしの末、結局協会けんぽの手続きで通称名に変更することができました。

このように、制度はあっても担当者が知らないためにスムーズに手続きができないことが多々ありました。
ほかには、診察券、介護保険証、銀行口座、クレジットカード、スマホの契約、町内会の名簿、電気ガス水道などの公共料金...などなど、いろいろな名義を「小百合」に変えてきました。

今でも時々SNSなどで、「病院でイヤな思いをした」などの投稿をしている人を見かけますが、「通称名に変えられますよ」と教えてあげると「そんなことができるなんて知りませんでした」と喜んでもらえます。
実際、通称名に変えられるという制度を知らない当事者の方はたくさんいるようですので、このことをできるだけ多くの当事者の方に知ってもらいたいと思っています。

しかし、いまだに通称名が使えないものも、運転免許証、住民票、登記や保険の契約などたくさんあります。
運転免許証は以前から在日外国人の方は通称名を併記できますし、住民票には2019年から旧姓を併記できるようになりました。
ぜひこれらの書類にもトランスジェンダーの通称名を併記できるように、機会を見てはいろいろなところで声をあげていきたいと思います。

前の体験談
次の体験談

コメント欄を読み込み中

体験談一覧ページ