特例法等に対する意識調査報告
2019年8月から12月、一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会では、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(通称、性同一性障害特例法)」について、性同一性障害当事者を対象とした意識調査を実施いたしました。
ご協力いただきましたみなさま、大変ありがとうございました。
ここに、その調査結果をまとめ、ご報告いたします。
なお、この調査結果は、『性別の取り扱いに関する特例法の要件に対する性同一性障害当事者の意識と心理―スノーボールサンプリングによるWEBアンケート調査から』と題した論文として、GID(性同一性障害)学会雑誌の第13巻に掲載されています。
調査方法 | 弊法人ホームページ上にアンケートURLを公開し、インターネット上で回答を得る |
質問項目 | 性同一性障害当事者の特例法等に関する意識調査 |
実施期間 | 2019年8月1日~2019年12月31日 |
調査責任者 | 西野 明樹(弊法人代表) |
実施機関 | 一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会 |
調査結果と考察の概要
- 当事者は非婚要件と子なし要件に特例法の厳しさを感じている。
- 当事者、特にMTF当事者は、それが戸籍の性別を変更する要件であるかにかかわらず、性別適合手術を希望する傾向がうかがわれた。
- 特にFTM当事者において、性別違和感軽減に必要な範囲以上の手術が戸籍の性別変更のために行われてる又は希望されていることがうかがわれた。
- 成人要件以外の要件について、当事者を巻き込んだ包括的な議論と見直しが必要と考えられる。
Q1.出生時の身体的性別
Q2.医師による性同一性障害の診断の有無
Q3.精神療法の状況
Q4.ホルモン療法の状況
Q5.精巣摘出術の状況(出生時の身体的性別が男性のみ)
Q6.陰茎切除術の状況(出生時の身体的性別が男性のみ)
Q7.造膣術の状況(出生時の身体的性別が男性のみ)
Q8.外陰部形成術の状況(出生時の身体的性別が男性のみ)
Q9.乳房切除術の状況(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q10.卵巣摘出術の状況(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q11.子宮摘出術の状況(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q12.尿道延長術の状況(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q13.膣閉鎖術(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q14.陰茎形成術(出生時の身体的性別が女性のみ)
Q15.特例法成人要件(20歳以上であること)についての考え
適切な要件だと思う理由)
- 幼少より性別違和がある場合にはかなり辛いかもしれないが、性別の取扱変更は本人が社会的に責任を取れると認められてから(=成人になってから)であるべきと思う。
- 未成年には判断能力がないと見なされるのは仕方がない。
- 不可逆的な事項が含まれているため慎重に判断するべきである。
- 性別変更は安易な気持ちで行うべきではないから。
- 性別の変更には適切な判断能力が必要とされるため、社会的な合意により判断能力を有するとされる年齢に設定することは、社会的な混乱を防ぐ上で有益であると考える。
修正が必要だと思う理由)
- 未成年の当事者のほうが精神的に未成熟な分、性自認と異なる性別で扱われる状況に耐えられない恐れがある。
- 未成年でも本人の意思と指定医療機関の判断と保護者の意思を踏まえ特定の基準を憂慮すべきだと考えます。
- 年齢よりも、強く違和を感じた時が適切な対処が必要だと思うから。個々にもよるがもっと下かもしれない。
- 精神的に合致する性別で出来るだけ早く生活した方が社会にスムーズに受け入れられるから。遅くなればなるほど受け入れてもらえない。
- しっかりとした診断があって、親権者の同意があれば未成年者にも門戸を拡げるべきと考えます。
修正案)
- 15歳になれば少なくとも中核群の性自認はほぼ確立されていると思われる。ただ、万一の場合も考慮し、元に戻すという選択肢もあるべき。
- 義務教育が終了する時期の年齢に引き下げを検討すべき。
- 当事者が未成年である場合は当事者と保護者の判断で(不可逆な移行と理解した上で)変更出来るものとする。
- 戸籍上の性別からくる苦痛が大きいなど医師の診断上必要と認められた場合、年齢に関わらず性別変更ができるとよいと思います。
- 二十歳以上であること。二十歳未満の場合は親権者の許可があること。
削除が必要だと思う理由)
- 未成年者に対する人権侵害にあたると思われるため。
- 本人が適切に判断できるのであれば、必ずしも成人であるべきものではないと考えます。
- 年齢を条件に縛りをかけるのは、個人の自由を制約している。責任能力のない未成年である場合は、医師のサポートや保護者の同意を得た上で変更するのが妥当であり、画一的に縛る必要性はない。
- 二次性徴が終了後では遅すぎる。
- 早期治療と早期変更をする事で早く社会に入る事が出来るから。
Q16.特例法非婚要件(現に婚姻していないこと)についての考え
適切な要件だと思う理由)
- 法律的に禁止されている重婚を防ぐ意味で。同棲はあっても構わないと思う。
修正が必要だと思う理由)
- 両名の合意に修正すべき。
- 身体違和を抱えていても、身体的な異性を恋愛対象とすることができる人もいるから。
- 婚姻関係を結んでいたとしても性別に違和感を感じることはあると思うから。
修正案)
- 例え婚姻してても、家族として受け入れてくれるのであれば、認める。
- 本人と配偶者の同意があり、医師の診断があれば権利を認めても良いと思う。
- 婚姻関係と戸籍上の性別変更は何ら関係しないと思います。大切な人と一緒になるのに性別の制限がある事自体が問題だと思うため。
- 婚姻をしていてもパートナーが認めればよい。
削除が必要だと思う理由)
- 未同性婚を認めないことの根拠がないから。
- 性自認が自分で判断出来ないまま成人し、社会的影響等に囚われ結婚し、その後自身の性自認に気がつくケースもあり得ますので制限すべきでは無いと思います。
- 自認があとからはっきりする事だってあるから。
- 婚姻後に性同一性障害と診断され性別適合手術を受けた場合に、性別変更出来ないために離婚を余儀なくされている。
- 婚姻は両者の合意のもと性別に関わらずできることを前提に進めるべきである。
Q17.特例法未成年の子なし要件(現に未成年の子がいないこと)についての考え
適切な要件だと思う理由)
- 養育費を踏み倒して手術した人を知っているから、自分で作った子供の責任は取ってほしい。
- 子供の年齢にもよるが、両親の性別変更に対して知識・思考が追いつかず混乱を招く恐れがある為。
修正が必要だと思う理由)
- 法律成立以前に子供を持っていた場合に適用するのはおかしい。
- 子供の賛同や理解が得られれば良いと思う。
- 子供に影響があるかどうかはわからない。
- これからの当事者はともかく、年齢の高い方は子供がいることがあるので変えてほしい。
- 18~20年も待たざるを得ないのは容認出来ない。
修正案)
- 子供が高校生(16歳)以上で了解してもらえればよいと思う。
- 家族が受け入れてくれるなら。
削除が必要だと思う理由)
- 多様性が認められる世界になるのならそもそもこの条件は不必要。
- 子供は性別変更しても育てることはできる。
- 子供たちは親の性に変更があっても柔軟に対処できると思う。他人にも迷惑がかかるとも思えない。
- 子供が親の性別移行に賛成している場合、子供が自分の存在に責任を感じてしまう可能性がある。
- 戸籍変更後に養子をとることが可能であるため、実子と養子に差が出ている。
- 現に子供が居ても居なくても性別変更している当事者は多数。婚姻をしたまま母親が2人という家庭や、父親が2人という家庭もよくある。現状とかけ離れている時代遅れの条件だと思う。
Q18.特例法生殖要件(生殖機能がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠くこと)についての考え
適切な要件だと思う理由)
- 銭湯のことを考えるとやむをえないと思う。
- シス女性の観点から推察すると、社会生活において当事者の生殖線が残った状態では受け入れ難い事が多々有り得ると思われる為。
- お風呂とかトイレなどに、悪用者が出てきそう。
修正が必要だと思う理由)
- 精巣や卵巣が機能しないだけでも良いと思う。
- 持病や体質など、やむを得ない理由で切除、摘出手術が受けられない人もいるから。
- 経済的または健康的な理由で手術を受けられない方への対応が望まれる。
- FTM当事者にとって意義を感じづらい手術を求めていることは理解できるので、議論はあってもいいと思う。
- FTMとMTFで条件が変わってしまいますが、FTMの場合は見えない臓器である子宮は取らなくとも良いではないかと考えています。
修正案)
- 性別適合手術を受けていなくともせめて睾丸摘出手術で認めてもらいたいです。
- 恐らく多くのFTMが感じるであろう不要な手術が避けられ、かつペニスのある女という非常に強い拒否反応を招くであろう事態を避けられる要件とする。
- 医療機関で性同一性障害が認められているなど、身体と精神に不一致があることが証明されれば適用しても良いと思う。
削除が必要だと思う理由)
- 生殖腺を欠かせる必要性・理由がわからない。
- 生殖腺の有無で性別を決められるのがそもそも違和感である。
- 子供が欲しい、という人も沢山いる。FTM、MTF同士ならばパートナーの為ならばと思う者もいる。MTFであっても、パートナーの為ならばと思う人もいる。そのため、この要件は必要でないと思われる。
- 身体的リスクを国家が認めるとか強制することはおかしい。人権問題だと思う。
Q19.特例法外観要件(その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること)についての考え
適切な要件だと思う理由)
- 日本の公共浴場などでの文化的観点から、現段階では必要と思う。
- 日常生活において自認の性別として振る舞うのは裸になる必要のある場所を除いては差し支えないと思うが、性別の概念をそのままにして例えばペニスのある女を法律的に認めるのは抵抗がある。
- 他の性別に近似する外観を認めないと、従来の男性、女性の性器と異なるためやむをえないと思う。
- 性別に違和を感じて性同一性障害と診断を受けているので当然ではないかと思います。
- 自分自身がそうでなければ自分を許せない。
修正が必要だと思う理由)
- 現状では陰茎形成術の複雑さからFTMの場合にはすでに使われていない。
- 見た目の問題ではない。
- 金銭面で全てを変える事が全員が困難であるため。
- FTMに関しては既に類似する外見でなくても変更できてる状態なので修正可能なのでは。
修正案)
- 内臓疾患などで手術に絶えられない当事者であっても性別移行が可能となるよう、柔軟な言い回しに修正すべきと思われます。
- MTFの場合はペニスがあるとなると公衆浴場等は入るのが難しい、女性から見た状態等から難しいので膣は作らなくてもペニスは切除が望ましく感じます。
削除が必要だと思う理由)
- 様々な理由で他の性別に係わる体に出来ない人もいるため。
- 公衆浴場など公共の場での公序良俗を考えてのことだと思うが、性別違和が社会に認知されればその心配は不要だと思う。トランス後の同性愛などを考えれば、性的指向性の問題も含めて考慮の必要がある。また違和感の強弱によっての法の適用、不適用は差別だとおもう。
- 外見について法律で規定されるのは屈辱的。
- 医学的根拠の無い偏見的な判断は不必要。