矯正施設等における性同一性障害を有する被収容者の処遇に関する要望書2013|法務省

矯正施設等における性同一性障害を有する被収容者の処遇に関する要望書2013|法務省

Posted by jimukyoku 日時 2013/11/14

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2013年11月14日、一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会は、法務省に対し、矯正施設等における性同一性障害を有する被収容者の処遇に関するを提出しました。
提出した要望書の内容をみなさまにお知らせします。


法務大臣 谷垣 禎一 様

【要望の要旨】

  1. 現在ホルモン療法を行っている当事者については、その治療を継続してください。 また、投与量は、性同一性障害に充分な知識と経験のある医師が下した処方にしたがってください。
  2. 性別適合手術を受け、身体の外見変更を行っている者については、戸籍の性別ではなく、外見の性別を元に収容施設を分けてください。
  3. 単独室への収容や、他の収容者と交流が無い環境では、コミュニケーション不足に陥り、精神に変調をきたす可能性もあります。可能な限り性同一性障害の当事者を集めた区画を作り、そこにおいて集団生活を送れるようにしてください。
  4. 「同障害と同様の傾向を有する者」として、処遇上の配慮を行うことの可否について検討するために診察を行う場合など、必要と認められる範囲において精神科医師による診察を実施して差し支えないこと。」とありますが、この医師は、性同一性障害についての充分な知識と経験を積んだ医師としてください。
  5. 今後、当事者の処遇を検討していただく際には、性同一性障害について充分な知識と経験を積んだ医師や、日本精神神経学会性同一性障害委員会およびGID(性同一性障害)学会、当事者団体など関連団体からの意見を参考に決定してください。 6.上記要望は刑事施設や矯正施設のみならず、入国管理局の収容施設についても同様です。入国管理局の収容施設に関しても、同様の措置をとられるようお願い申し上げます。

【要望の理由】

平素は、性同一性障害の問題にご尽力いただき、心より御礼申し上げます。
私たちは、全国に1300名の会員を有する性同一性障害の当事者団体です。
性同一性障害とは、出生時に割り当てられた性別と、社会生活上の性や性自認が一致しないことにより、多大な苦痛・苦悩を有する状態のことをいいます。

平成23年6月1日に法務省成第3212号として「性同一性障害等を有する被収容者の処遇方針について」と題する通知が、法務省矯正局成人矯正課長ならびに法務省矯正局矯正医療管理官より出されていますが、この中で性同一性障害を有する者の処遇について事細かく規定がなされており、中には当事者の心情に即した内容も見受けられ、一定のご理解を頂いていますこと、まずは感謝申し上げます。

しかしながら、この通知は、基本的に性同一性障害を疾患として認識できておらず、治療しなくても問題が無いものという誤解の上に構築されているように見受けられます。
性同一性障害は、WHOのICD-10でも規定されている疾患であり、医学的な治療が必要です。にもかかわらず、処遇の検討の際に、性同一性障害について充分な知識と経験を積んだ医師や、日本精神神経学会の性同一性障害に関する委員会およびGID(性同一性障害)学会などの意見が聴取・反映されていません。
そのため、内容的にいくつかの点でまだまだ対応が不十分である点が多く、改善をお願いいたしたく、ここに要望申し上げます。

特に、収容施設および収容区域を戸籍の性別のみにより分けるよう決められておりますが、性別適合手術が終わっていても「現に未成年の子がいないこと」などの性同一性障害特例法の要件を満たすことができずに性別の取扱いを変更できない当事者もおり、戸籍の性別のみで区分することは、当事者にとって著しい苦痛を与えることになります。
例えば、多人数の男性に囲まれた中に、女性が一人だけ取り残された状況を考えれば、それがどれだけ辛く、苦痛であるのか容易に想像できることと思います。

また、ホルモン療法についても、「これらの治療を実施しなくても、収容生活上直ちに回復困難な損害が生じるものと考えられない」とありますが、これは現在の医学的見地を完全に無視した内容であり、骨粗鬆症などの重篤な疾病に罹患したり、更年期障害などを発症する可能性も高く、これは医療上誤った判断です。

そもそも、刑事施設などの収容施設は、収容者の矯正と社会復帰を実現するための場所であり、与えられた罰以上の苦痛を収容者に与えて良い筈がありません。

昨年2月には、兵庫県弁護士会が、加古川刑務所に収容されている男性から女性に性別移行を行っているが、性別の取扱いは変更していない性同一性障害の当事者を女性施設に移送するよう勧告を出してます。更に日本弁護士連合会からも平成21年と22年に同様の勧告が出されています。こうした勧告を無視してよいわけがありません。

ぜひご検討をいただき、この問題の更なる解決に、ご助力いただきたくお願い申し上げます。

平成25年11月14日
一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会
代表 山本 蘭