2005年特例法に関する施行状況調査

2005年特例法に関する施行状況調査

Posted by jimukyoku 日時 2005/07/25

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性同一性障害者の性別の取り扱いの特例法に関する法律 施行状況調査(2005年)

2004年7月16日より 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され 1年あまりが過ぎました。
本団体では、申立て件数とその結果について調査を行いましたので、お知らせします。

特例法2005.jpg
*申立ての件数は、徐々に落ち着く(鈍化する)傾向にあることがうかがえる。
*申立て件数に地域差はあったが、審判の結果に差は見受けらず、地方でも許可されていた。
*却下の事例は殆どなく、2件の却下事例(東京都1件、埼玉県1件)は法律の要件に該当しなかったことなどが要因だった。
*申立て件数や認容件数は比較的人口の多い都市部に集中しており、とくに東京と大阪で件数の約半数を占めている。人口比に照らしても他県より件数が多かったことから、性同一性障害当事者が地方では生活しにくい現状があるのではと推察される。

「性同一性障害特例法 施行1年にあたって...」

「性同一性障害者の性別の取扱いに関する特例の法律(通称:特例法)」が昨年の7月16日に施行されから、早いもので 1年が経ちました。性同一性障害を有する者の性別更正が現実となり、これにより200名を超える当事者が新しい性として 人生を踏み出して行かれたことになります。すでに結婚の報告も複数からあり、このことはとても喜ばしく思っております。

私たちが各地の家庭裁判所の協力を得て独自に状況を調査した施行後 約3.5ヶ月経過時点では、申立て100件と、 52件 の認容でしたが、その後、最高裁判所事務総局家庭局の発表によると、施行後から1年経過した時点では、申立て249件、 認容208件と、当事者全体から見れば少しずつですが増加している模様です。ただし、申立数のペース(月平均)は減少傾向にあります。

画期的なことは、家庭裁判所に性別更正の申し立てをした後、却下された事例が ほとんどないことです。却下された数例は、申立ての要件から外れていたケースが殆どと確認しており、取り下げた例も同様の理由か提出書類の不備等によるものと考えられます。却下された例がほとんどないことは、非常に喜ばしいことであり、私たち当事者にとっては朗報となりました。本法律の成立に尽力くださった議員の皆様、法務省・厚生労働省をはじめとした行政の皆様、日本精神神経学会をはじめとする医師の皆様、法曹界の皆様、マスコミ関係の皆様他関係者各位に改めて厚く御礼申し上げます。

しかし喜んでばかりはいられない状況があります。「性別違和」を訴えて医療機関を受診した方だけでも全国に約4,000人、 「性同一性障害」と診断されている当事者は、実数で3,000人以上おり、この数は毎年増え続けています。医療機関に通うことが困難な 地方にお住まいの方や、未成年者などを含めると、実際は更に多いと推定されます。これに対して、性別の更正ができた方は209人ですから、全体のわずか5~6%にとどまっています。今後、申し立て件数が増えるとしても、まだまだ多くの当事者が性別更正の適用外に残されることになってしまいます。特例法の要件を満たせない方、性別適合手術までは望まない方、治療途中の者など、多くの当事者にとっては、まだまだ苦しみが続くのです。特例法の施行やマスコミ報道などによって「性同一性障害」という言葉はかなり浸透はいたしました。しかしなら、就労の際や教育現場において発生する無理解や強制など、まだまだ性同一性障害に対する差別や偏見は数多く残されています。また、性別更正ができたとしても、「性別を更正した」という事実は戸籍上残ってしまうため、これを原因として差別を引き起こす可能性は充分にあります。

特例法には「2名以上の医師の診断書」「20歳以上」「現に婚姻していない」「現に子がいない」「生殖腺の除去」「外性器が他の性のものに近似している」という要件があります。このなかでも特に「現に子がいないこと」という要件は、子供のいる当事者にとって非常に過酷で厳しい要件となっています。子供がいるという事実は、今更どうにもできません。去る2005年7月10日、読売新聞社より「戸籍更正決定を受け、拘置所(男区→女区)施設移す」という大阪の受刑施設でのニュースが流れました。この方はそれでも性別更正できたからよいけれど、子供がいるなどして性別更正ができない人は、一体どうすればよいのでしょうか。性別の更正ができないMTFであれば、男子房に入れられてしまうでしょう。そうなれば、本人の精神的苦痛は、どんなに大きいことでしょうか。身体が全く同じ状態であるにも関わらず、このような扱いの差を受けるのならば、これは憲法14条にいう「法の下の平等」に反していると言わざるを得ません。この「子供がいないこと」という要件が付けられたのは、「子の福祉のため」と説明されていますが、現に父親であった者が女に、母親であった者が男に「既に変わってしまっている」という事実は変えることができません。逆に、今母親なのに戸籍が「男性」である、今父親なのに戸籍が「女性」であることが、親にとっても子供にとっても不利益となっているのです。そして、なにより親の性別更正を求めているのは、その子供自体であることも多く、子供を健全に育てるためにこそ親の性別更正が必要なのです。このように親が性別を更正することについては何ら問題がないだけでなく、親子共に一番福祉に叶うことなのです。この「現に子がいないこと」という要件は、何をおいても最初に撤廃しなければなりません。

私たちは今後も特例法の「子どもがいないこと」要件の撤廃を含む要件の緩和や、性同一性障害を抱える者に対する差別や偏見が無くなり、普通にくらせる社会が来るように活動を続けてまいります。今後とも、ご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

gid.jp(性同一性障害を抱える人々が、普通にくらせる社会をめざす会)
代表(理事長)山本 蘭 および 理事一同