特例法に対する最高裁違憲判断への見解

特例法に対する最高裁違憲判断への見解

Posted by jimukyoku 日時 2023/12/01

Share:


平成15(2003)年7月10日に成立、翌年7月16日に施行された『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』(平成15年7月16日法律第111号)(以下、特例法)は、性同一性障害者のうち特定の要件(特例法第三条)[1]を満たす者について、家庭裁判所の審判を経て、法令上の性別の取扱いと、戸籍上の性別記載を変更できるとする法律です。これまで多くの当事者がこの特例法により公的な性別の取扱いを出生時に指定されたものから性自認に沿ったものへと変更してきました。しかしながら、要件の厳しさのため、性自認に沿った日常生活を送りながらも公的な性別の取扱いは変更できずいる当事者の方が圧倒的に多いことが課題となっていました。

令和5年11月25日、特例法が求める要件のうち、生殖機能をなくす手術を求める要件について、最高裁判所大法廷が「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」ため、憲法に違反しており無効であると判断しました。この最高裁の違憲判断を受け、当会としての見解をまとめましたので、ここに公開します。

令和2(ク)993性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

[1]性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

  1. 十八歳以上であること。
  2. 現に婚姻をしていないこと。
  3. 現に未成年の子がいないこと。
  4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。


号要件(生殖腺要件)について

 まずは、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。」について、違憲との判断がなされたことを喜ばしく思います。
 当事者は、社会的に男性もしくは女性として長年生活しているにもかかわらず、就職や転職・証明書類の取得・何らかの契約を結ぶ際に本人確認のために身分証明書を提示すること等によって、戸籍と見た目の性別が異なる事情を説明しなければならない場面があります。その度に不安や不快な感情を抱くことになるのが現状であり、不必要なカミングアウトで精神的苦痛を感じることになります。
 開き直っているまたは諦めている当事者の方々もいらっしゃいますが、性別が何ら関係のない行為に対する不必要なカミングアウトが無くなれば、手術を選択できない当事者のQOLはより向上すると考えられます。

5号要件(外観要件)について

 4号要件に違憲判断がなされましたが、5号要件については高裁へ差し戻され、改めて違憲か合憲かの判断がなされることになります。
 これについて、FTM当事者とMTF当事者では捉え方が異なる部分になるかと思います。FTM当事者は、ホルモン治療によって陰核が肥大化し、近似する外観と認められるケースがあります。一方、MTF当事者の方は「近似する外観」の捉え方によって性別適合手術が必須になることに変わりがない可能性が残っています。5号要件を満たすために睾丸・陰茎の切除が必要ということになった場合、今回の審判で違憲とされた4号要件の「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態」とならなければ、戸籍の性別を変更できないことになってしまいます。日常生活では限定された空間でしか露出しない外観(睾丸・陰茎があること)によって変更ができないことは、これまでと同様に社会的な不利益を被り続けることに他なりません。性別適合手術を選択できず、手術以外の方法を駆使して自認する性別で社会に溶け込み生活をしている当事者のためにも、5号要件についても違憲判断がなされることを願います。

大多数の当事者は性別適合手術を望んでいます

 身体への嫌悪・違和感に苦しむ当事者にとって、性別適合手術はゴールであり通過点です。何らかの理由で断念せざるを得ない方もいらっしゃいますが、生きるために必要な手段として不可欠なものです。今回の違憲判決は喜ばしく思う一方、性別適合手術を望む当事者にとって不利益をもたらさないかという懸念があります。「手術をしなくても戸籍性を変えられるのだから良いじゃないか」というような考えによって性別適合手術が受けにくくならないかということです。
 戸籍の性別と身体の性別は密接に関連するものですが、個別の問題です。身体に嫌悪・違和感があれば、それは生きる上で常に感じてしまうことになります。手術をせずに戸籍性を変えられたとしても、いずれは性別適合手術をしたいという当事者は多くいます。手術が必要.JPG
 当事者と一言でいっても、身体への嫌悪・違和感の度合いや考え方が異なります。社会的な生活に不便はなくとも、日常で否応なく感じる嫌悪・違和感を無くしたいという当事者の選択肢を狭めることがないようにしていかなければなりません。

性同一性障害当事者への正しい理解を求めます

 「自らの性自認だけで、女性の戸籍に変更できるようになり、トイレや公衆浴場などに入って来て、女性のスペースが脅かされる」などという発言がネットで頻繁に流布されています。
 しかしながら、そもそも、「性別の取扱いの変更の審判」には、特例法第3条2項の通り、医師による診断等が必要です。持続的な身体性とは異なる性別であるという確信(性自認)とその確信に基づいた社会生活への適応について、医師による客観的な判断が行われるということを意味します。特例法第2条には、性同一性障害者とは、「診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの」と定義されています。今後、4号要件や5号要件が改正されたとしても、この第3条2項がなくならない限り、都合のよいときだけ戸籍の性別を変えるようなことはできません。
 私たち当事者は、性自認に沿った日常社会生活を送るために性別移行を行うのであって、決して性的欲求を満たすために性別移行を行うわけではないことを強く表明し、社会からの理解を求めます。

社会に散見される過剰反応に自制を求めます

 犯罪・迷惑行為になるとして、度々取り上げられるトイレ・公衆浴場の問題についてさらに言及します。
 FTM当事者は、ホルモン治療で髭が生える・体毛が濃くなる・筋肉質になる等に加えて乳房切除術で自身の身体を男性化します。MTF当事者は、ホルモン治療で脂肪がつきやすくなり女性的な丸みを帯びるのに加え、脱毛・美容整形等、様々な手法で女性化します。
 戸籍の性別または身体的性別で使用するトイレを画一的に分けるべきという論証が声高ですが、外見は男性的だが戸籍上は女性となっているFTM当事者は女性用トイレに入ることになり、トラブルの対応に対峙しなければならない可能性があります。逆に外見は女性的だが戸籍上は男性となっているMTF当事者は男性用トイレに入ることになり、性暴力被害に遭う危険に身をさらすことになってしまいます。
 戸籍上の性別、体の性別、生殖腺の有無等、一見わかりやすい基準で問題解決を図ろうとしても、当事者の実態は多様であり、結局のところ場合分けが複雑になっていくだけです。杓子定規な対応は、当事者本人に苦痛や苦悩をもたらすのみならず、かえって社会の混乱を招くことすら危惧されます。
 公衆浴場については、当事者のほとんどは身体性への嫌悪感を多少なりとも抱えています。そのような自身が嫌悪する身体を人目に晒すような場、ましてトラブルになりかねない場に進んで行く当事者は稀です。また、公衆浴場は各自治体の条例及び管理者の責任において運用されているものであり、特例法の生殖能力の有無(4号要件)または外観要件(5号要件)とは無関係です。条例や管理者の定めるルールに従って使用しなければ、犯罪または迷惑行為とされるため、SNSなどで言われているような「心は女だからという自称だけ」で女性用の浴場に入れるという事態になることは到底考えられるものではありません。それでも身体性とは別の浴場を使用するということであれば、それは当人の責任においてなされる行為であり、仮に犯罪または迷惑行為となれば、その当人が処罰等を受けるのが当然です。
 これまで当事者は、トイレにしても公衆浴場にしても、よりトラブルにならないようにと思慮し、選択し、使用してきました。だれでもトイレの利用などがよい例です。私たち当事者はあくまで当事者であり、犯罪者ではありません。もし仮に犯罪または迷惑行為を起こす当事者がいたとしても、それはその当人が社会的・道義的・法的責任を負うべきものであり、それにより当事者全般がまるで犯罪者予備軍のように警戒される謂れはありません。ある人物の犯罪行為を当事者全般にあてはめることは偏見にほかなりません。私たちは、当事者の優遇ではなく、共生社会の実現を引き続き求めて参ります。

特例法の改正に向けて

 違憲判断がなされた以上、4号要件については改正の必要性が出ましたが、5号要件については判断待ちとなっています。しかしながら、違憲・合憲の判断を待たずとも、法改正に向けて考えを巡らせている方もいらっしゃいますので、性別適合手術という選択肢の有無に関わらず、当事者がより良い日常生活を送れる社会を目指して一刻も早い法改正に向けて微力ながらも尽力して参ります。また、上記以外の要件である未成年者・未婚・未成年の子なし要件についても引き続き検討と働きかけを行って参ります。

一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会理事会

代 表 永沼 利一

副代表 倉嶋麻理奈

理 事 上田 直志

理 事 日野 由美