令和5年新理事会体制発足にあたっての所信表明|理事会

令和5年新理事会体制発足にあたっての所信表明|理事会

Posted by jimukyoku 日時 2023/05/01

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令和5年3月18日に実施された定時会員総会とその後の理事会にて、新理事会体制が発足しました。
LGBT関連法案等、国内で大きな潮流が起こっているなかでの新理事会発足です。これにともない、新理事会体制が今後の法人運営に臨むにあたり、所信表明という形で、本法人の方針及び重点課題に関する本法人の考えをまとめました。ここにその全文を公開します。


新理事会体制発足にあたっての所信表明

令和5年5月1日

 2023(令和5)年3月18日に開催された定時会員総会を経て発足した新理事会体制が今後の法人運営に臨むにあたり、本法人の方針及び重点課題に関する本法人の考えを述べます。

 

はじめに

 昨今、「LGBT」「LGBTQ」などの言葉の認知は飛躍的に向上し、性・性別の多様性に関する知識は、すでに一般教養ともなろうとしています。これまで社会の少数派であった多様な性・性別を有する当事者(以下、LGBT等当事者)に対する社会の受け止めは寛容になり、その雰囲気は、施策等(たとえば、自治体によるパートナーシップ制度や民間企業によるLGBT等当事者向けの商品開発)により、LGBT等当事者の日常社会生活の質は大きく底上げされつつあります。この変革がLGBT等当事者にもたらした恩恵は大きく、本法人としても歓迎するものです。

 性別違和を有する当事者[1]は、性・性別の不一致による困難(出生時の身体的性別[2]と性自認[3]との不一致に由来する性別違和感によって生じる苦痛(以下、身体の不一致による困難)、及び、出生時の身体的性別に基づいて他者から認識されている自己の性別と性自認との不一致により生じる苦悩(以下、認識の不一致による困難)、自身の性・性別のあり方が性別二元論的な考えを前提として構築されている社会構造に適合しないことによる社会的葛藤(以下、社会との適合に関する困難))を抱きます。こうした困難、特に身体に対する苦痛は、性・性別の多様性に関する知識や理解の広がりのみでは解消されません。そこで、性別違和を有する当事者が“社会のなかで本来の性に沿って自分らしく生きる”ことに資する法人運営を担う理事会としての考えをここにまとめます。

 

1、性別違和を有する当事者への医療的支援について

 現在、身体の不一致による困難を軽減するために行われているのが、ホルモン療法や性別適合手術などの身体的治療です。2018年(平成30年)4月1日、平成30年度診療報酬改定に性同一性障害当事者に対して行われる手術療法の一部(乳房切除術や性別適合手術等で所定の要件を満たす場合)に公的医療健康保険制度が適用されることになりました。大きな前進ではありますが、多くの課題が残っています。

ホルモン療法との混合診療

 ホルモン療法は公的医療保険制度の適用外(自由診療)のままとなっているため、自由診療であるホルモン療法をすでに受けている場合には、混合診療となり、すべての手術療法が公的医療保険制度の適用外となってしまいます。身体的治療のなかでも手術療法は、身体への侵襲性が高く、不可逆的な変化を伴います。本人の意思を大切することが大前提ですが、性別違和感の強さと社会適応状態のバランスをとりつつ侵襲性の低いものから行っていくことが性同一性障害当事者の本来的な利益や日常社会生活の質の向上につながっていくものと思われます。公的医療保険制度するためには侵襲性の高い手術療法から行っていかなければならない制度設計は、性同一性障害当事者の本来的利益に沿わないと考えられます。
 本法人は、性同一性障害当事者へのホルモン療法を公的医療保険制度の適用とすることを強く求めて参ります。

第二次性徴抑制ホルモン療法

 出生時の身体的性別とは異なる性ホルモンを投与するホルモン治療は、身体に不可逆的な変化をもたらすことから、年齢制限が設けられています。そこで若年層には、可逆的な治療として、第二次性徴を抑制するためのホルモン療法が行われるようになってきています。しかしながら、費用的負担が大きく、保護者の経済状況により、治療の開始や継続が困難となる事例が散見されています。
本法人では、若年の性同一性障害当事者への第二次性徴抑制ホルモン療法について、補助金等による経済的な支援措置が行われることを強く求めて参ります。

 

2、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

 平成十五年法律第百十一号「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」により、所定の要件を満たした場合、戸籍上の性別の取扱いを変更することができるようになっています。しかしながら、性別違和を有する当事者の実状を鑑みるに、要件は必要以上に厳しいことが指摘されます。

現に婚姻をしていないこと・未成年の子がいないこと

 性別違和を有する当事者が性別違和感を抱くようになる時期は、個々に異なり、身体的性別にとって異性である者と婚姻あるいは子を成した後に戸籍上の性別変更が必要となる場合があります。この要件は、性別違和を有する当事者が婚姻及び子を成し得る事実を否定するものです。“現に婚姻をしていないこと”及び“未成年の子がいないこと”について、即時撤廃を強く求めて参ります。

性別適合手術を受けていること

 “生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること”、“その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること”という2つの要件は、性別適合手術を事実上必須とするものです。先に述べたように、身体的治療は、性別違和感の強さと社会適応状態のバランスをとりつつ侵襲性の低いものから行っていくことが性同一性障害当事者の本来的な利益や日常社会生活の質の向上につながっていくものと思われます。性別適合手術を受けておらずとも、身体的性別とは異なる性別であると他者から認識される外見を持つことは可能です。このような状態にある者は、性別適合手術を受けた者よりも数多く存在し、戸籍上の性別が記載された文書等の呈示により、不本意に出生時の身体的性別や性別違和を有する当事者であることが暴かれてしまう現実に曝されています。アウティングは許されないという司法判断にも反します。性別適合手術に関する要件の撤廃もしくは、緩和は法令を現実に合わせるためにも、早期の実現を強く求めて参ります。

 

3、LGBTの理解増進もしくは差別禁止に関する法令

 昨今議論されているLGBT関連法案ですが、性・性自認を理由にした差別を禁止したり性・性自認に関する多様性の理解を求めるような理念法にとどまった場合、性別違和を有する当事者が得られるものは多くありません。先に述べた、身体の不一致による困難、認識の不一致による困難、社会との適合に関する困難を具体的に解決・解消し得るような法令の制定が必要と考えます。特に、公的身分証明書としてのみならず広範な日常生活場面での使用が検討されているマイナンバーカードについては、性別欄の廃止を強く求めて参ります。

 

一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会理事会

代 表 永沼 利一

副代表 倉嶋麻理奈

理 事 上田 直志

理 事 日野 由美


[1] ここでは性・性別の不一致による困難を抱く者のことを指し、医師により性同一性障害等の診断を受けているか否かには関わらず、治療によりすでに困難が軽減または消失されている者を含む
[2] 外性器の形状や性染色体等、現在は生物学的要因として認知されている判断基準によりにより判別された性別のことを指す
[3] ここでは、永続的またはある一定の期間、一貫して継続的に保持されている自己の性別に対する認識のことを指す