性同一性障害の身体的治療に対する健康保険適用等に関する要望書2013|厚生労働省

性同一性障害の身体的治療に対する健康保険適用等に関する要望書2013|厚生労働省

Posted by jimukyoku 日時 2013/04/23

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2013年4月23日、一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会は、厚生労働省に対し、性同一性障害の身体的治療に対する健康保険適用等に関する要望書を提出しました。
提出した要望書の内容をみなさまにお知らせします。


厚生労働大臣 田村 憲久 様

【要望の要旨】

  1.  現在、健康保険の診療報酬で定められている手術技法につき、性同一性障害の治療に使用で きる技法については、診療報酬の対象となる旨の明確な通知をお願い致します。
  2. また、診療報酬で定められていない性同一性障害治療における性別適合手術についても、健康保険の対象とするようお願い申し上げます。
  3. 性同一性障害のホルモン療法に対しても健康保険の適用をお願い致します。
  4. 性同一性障害の診断を確定するためや体調維持のために行う、染色体検査やホルモン値検査については、診療報酬の対象となる旨の明確な通知をお願い致します。
  5. 性別適合手術手術を終えている性同一性障害当事者の保険証の性別は、現在の身体の状態に合わせてください。
  6. 性別の取扱いの変更を受けた性同一性障害の当事者に対して、新たな基礎年金番号を割り当てる措置を止め、従来の年金番号を引き継いでください。
    ※平成24年9月26日以降に性別の取扱いの変更を受けた当事者に対して実施されていますが、差別を助長する措置であり、早急に中止をお願い致します。
  7. 精神障害者保健福祉手帳から、性別欄を削除してください。
    ※身体障害者手帳には、性別欄は存在しません。

【要望の理由】

平素は、性同一性障害の問題にご尽力いただき、心より御礼申し上げます。
私たちは、全国に1150名の会員を有する性同一性障害の当事者団体です。

現在、性同一性障害の手術療法に関しては、非常に曖昧な位置づけとなっています。
平成14年参議院法務委員会において、当時の浜四津参議院議員の質問に対し、真野章厚生労働省保険局長は「手術療法については個別に判断する」と答弁しており、明確に健康保険の対象ではないとしていません。
現在、性同一性障害の治療は、日本精神神経学会が定めた「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」に沿った形で行われており、すでに治療の正当性と妥当性は担保されています。また、厚生労働省では、先頃「みんなのメンタルヘルス」というホームページで情報提供を始めましたが、ここで性同一性障害も取り上げられており、その治療の中に「内分泌療法(ホルモン療法)」と「外科的療法」も記載しています。即ち、これは厚生労働省自身が性同一性障害の治療として、ホルモン療法や外科的療法が必要であると認めていることに他なりません。
更に、例えば子宮・卵巣摘出など、健康保険の診療報酬で定められている手術技法については、すでに一部の医療機関において健康保険適用での手術がなされており、審査も通過しています。しかるに、このような曖昧な事態であるため、まだまだ多くの医療機関では健康保険適用ではなく、不公平が生じています。
性同一性障害の当事者は、性別の記載が問題となって就労がままならず、アルバイトや派遣など不安定な生活を余儀なくされている当事者も多く、健康保険が適用されなければ、手術やホルモン療法に対する金銭的負担は、非常に重いものとなってしまいます。
特に東日本大震災の発生や昨今の不況は、当事者の雇用を更に難しくし、生活保護を受けざるをえなくなるケースも続出しています。

また、現在年間700名以上が性別適合手術を受けていると考えられていますが、この内、国内の 正規ジェンダークリニックで手術を受けることができた人は2割にも満たないというデータもあり、タイなどの海外での治療に頼らざるを得ないという現状があります。
国内で手術治療のできる医療機関は非常に限定されていますが、これも保険適用が曖昧であることが原因で、明確になれば医療機関が増え、改善されることが見込まれています。

そこで、現在診療報酬に定められている手術において、ガイドラインに従った形での手術に関しては、明確に診療報酬の対象である旨、厚生労働省から通知を発出していただけるよう、お願い申し上げます。
診療報酬に定められていない手術技法についても、上記との不公平を解消する意味でも、早急に健康保険の適用としてくださるよう、お願い申し上げます。
更に、ホルモン療法は一度始めるとほぼ生涯続ける必要性があり、中断すると骨粗鬆症などの重篤な疾患を併発する可能性もあります。そのため、トータルの負担は過大なものとなってしまいます。特に、性別の取扱いの変更を済ませた当事者については健康保険を適用したホルモン療法が行われており、これも著しい不公平となっています。早急な健康保険の適用が望まれます。

更に、性同一性障害としての診断確定や、体調維持のために行う染色体検査やホルモン値検査については、健康保険適用として扱っている医療機関がある一方、自由診療扱いしてしまっている医療機関もあります。これらも必要な検査であり、明確に診療報酬の対象である旨、厚生労働省から通知を発出していただけるよう、お願い申し上げます。

その他、現在健康保険証の性別は戸籍の性別を基に記載されています。昨年申し出があれば裏面記載なども可能となりましたが、この時戸籍の性別と異なった性別を記載することは、誤診を招く可能性があるなどの理由で認められませんでした。
しかしながら、性別適合手術を終えていて、特例法の要件を満たさないなどの理由で性別の取扱いの変更を行っていない者は、身体だけで言えば性別の取扱いの変更を行った者となんら変わらず、むしろ性別の取扱いの変更を終えた者として扱った方が望ましいとさえ言えます。従って、医学的に正しい診断を下すためにも、性別適合手術を終えた者は、現在の身体の状態に合わせた記載とすることを望みます。

手術やホルモン療法への健康保険の適用は、当事者の円滑な社会適応を促進し、結果として日本の社会や財政への貢献となります。ぜひご検討をいただき、この問題の更なる解決に、ご助力いただきたくお願い申し上げます。

平成25年4月23日
一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会
代表 山本 蘭