性同一性障害に関する法律および人権についての要望書2010|法務省
2010年1月13日、性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会(gid.jp)では、法務大臣、厚生労働大臣、総務大臣、文部科学大臣、外務大臣に対し、性同一性障害に関する施策の拡充を求め、要望書を国会内の民主党幹事長室において提出いたしました。
要望は法務省に対するもの8項目、厚労省に対するもの13項目、総務省に対するもの5項目、文科省に対するもの8項目、外務省に対するもの1項目の35項目になります。
法務省に提出した要望書の内容をみなさまにお知らせします。
法務大臣 千葉 景子 様
平素は、性同一性障害の問題にご尽力いただき、心より御礼申し上げます。
私たちは、全国に730名の会員を有する性同一性障害の当事者団体です。
性同一性障害とは、身体上の性、社会生活上の性と精神の性が一致しないことにより、多大な苦痛・苦悩を有する状態のことをいいます。
岡山大学の最近の調査においては、性同一性障害により、不登校を経験した者24.5%、自殺を考えた事がある者が68.7%、自傷・自殺未遂経験者は20.6%と有意に高い数字を示しています。
2004年7月には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、一定の条件を満たす者につき、戸籍の性別変更の申し立てが可能となり、また、2008年6月には改正が行われ、子どもを持つ当事者でも、子が成人していれば性別変更ができることになりました。その結果、2008年末までに性別変更を行った者は1263名に達しました。
これも、大臣を始め政府のみなさまや国会議員のみなさまがご尽力いただきましたおかけであり、深く感謝申し上げます。
しかしながら、特例法の成立、改正だけで、私たちの問題がすべて解決したわけではありません。性同一性障害の当事者は2007年の日本精神神経学会の調査で7177名。その後の増加や医療機関 を受診していない人を含めると1万人以上はいるといわれ、性別変更ができた人はその1割に過ぎません。
性同一性障害に関しては、この戸籍の性別変更以外には社会支援策は講じられていず、まだまだ多くの当事者が差別や偏見により苦しい状況におかれています。
このため、アルバイトや派遣などで就労している当事者は多く、金融危機以来の不況で、派遣切など当事者の生活を直撃しています。
特に、改正されたとはいえ、未成年の子どもを持つ当事者にとっては、性別変更ができるようになるまでの年月は長く、それまで苦悩が続くことになります。
その上、苦労してようやく性別変更にこぎ着けても、戸籍上いつまでも「平成15年法律第111 号3条による裁判発効日」の記載が残り、性別変更した事実が明らかにされてしまいます。
このため、女性から男性に性別移行した当事者が、戸籍変更後に婚姻してできた妻の子を非嫡出子として扱うよう、法務省が指示する問題も起きました。
昨年12月、国連総会に「性的指向と性自認に関する声明」が提出され、この中で「すべての国と関連する国際人権機構に対し、性的指向と性自認に関わらず、すべての人の人権の促進と保護に務めるよう求める。」と謳われています。日本は声明賛同国に名を連ねているにもかかわらず、これを実現するための具体的な施策は実施されていません。
そこで、以下の要望をお願いいたします。ぜひご検討をいただき、この問題の更なる解決に、ご助力いただきたくお願い申し上げます。
- 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条第1項3号の規定にある、「現に未成年の子がいないこと」条文を削除してください。
- 結婚や転籍などにより新戸籍が編制されても、戸籍の身分事項に必ず記載されてしまう「平成15年法律第111号3条による裁判発効日」の記載を削除してください。(戸籍法施行規則第39条1項9号の削除)
- 女性から男性に性別移行した当事者が、戸籍変更後に婚姻してできた妻の子は、嫡出子として扱ってください。
- 性同一性障害による差別や人権侵害が起らないようにする施策の実施およびその具体的な方法を検討する機関の設置してください。
- 地方自治体や国の機関での窓口や救済機関の設置など、性同一性障害を理由とした人権侵害が起きた際の救済措置および体制づくりをお願いいたします。
- 性同一性障害に関する正しい人権知識の啓発を行ってください。
- 性別変更前の当事者に対する男女別施設における当事者の利用を、治療状態など一定の条件下で保障してください。
- 性別変更前の当事者に対する受刑施設や拘置所における性別の取扱いを、少なくとも身体の状態に合わせるよう配慮してください。
性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会
代表 山本 蘭