これからの活動方針と活動内容
特例法の「現に子がいないこと」要件の即時無条件撤廃を強く推進します。
「中解決」を含め、様々な立場の当事者の方に対応する施策の実現をめざします。
本年7月16日「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」がいよいよ施行されました。
施行後2ヶ月を経過して、申立てを行った人が数十名と、15名程度の許可事例が各メディアの報道や会員などからの報告で確認されております。特例法施行前には厚生労働省令に記載されている「治療の正当性と妥当性」という文言から、海外オペや国内闇オペなどが排除されるのではないかという憶測なども飛びましたが、幸いそのような懸念もなく、現在のところ許可も順調に認められているようです。まずは、一安心といったところですが、喜んでばかりもいられません。
性同一性障害の当事者は、全国に7000人~10000人とも言われています。その中で、申立てができた人はごく一部に過ぎません。性別変更できる人は、全国で200名程度ではないかという予想がありましたが、当たってしまうかもしれません。このように、まだまだ多くの当事者の方が性別変更の適用外に残されることになってしまいます。
特例法には 「2名以上の医師の診断書」、「20歳以上」、「現に婚姻していない」、「現に子がいない」、「生殖腺の除去」、「外性器が他の性のものに近似している」という要件があります。
この要件の中でも特に「現に子がいないこと」という要件は、子のある当事者にとって、非常に酷で厳しい要件となっています。今まで何度も述べてきたように、子供がいるという事実は、今更どうにもできません。また「子の福祉のため」とは言っても、現に父親であった者が女に、母親であった者が男になっているという事実は変わらないのです。逆に、今母親なのに戸籍が「男性」である、今父親なのに戸籍が「女性」であることが、親にとっても子供にとっても不利益を生じているのです。
そして、なにより親の性別変更を求めているのは、その子ども自体であることも多い。実際に、子どもを健全に育てるためにこそ親の性別変更が必要なのです。更に、これらの要件のために性別変更できない当事者は、法律の要件から外れたことで「ニセ当事者」とか「うそつき」と呼ばれ、今までせっかく苦労して心の性別に従った生活を確保してきたにもかかわらず、それを反故にされそうになるなど、より厳しい差別を受ける事態も起こってきています。
この要件は、基本的人権を無視しているばかりでなく、法の下の平等を定めた憲法14条にすら違反している疑いもあります。この「現に子がいないこと」という要件は、何をおいても最初に撤廃しなければならない要件です。
また、性別変更ができたとしても、それで全て終わりではありません。
「性別を変更した」という事実が差別を引き起こす可能性は充分にあります。また、就労の際や教育現場において発生する無理解や強制など、まだまだ性同一性障害に対する差別や偏見は数多く残されています。特例法が出来たことは大きな一歩ですが、性別適合手術までは望まない方や治療途中の多くの当事者にとっては、まだまだ苦しみが続きます。特例法の施行により、私たちの運動がようやくスタートラインに立ったとも言うことができます。本当に「普通にくらせる」その日が来るまで、まだまだやらなければならないことは多いのです。
さて、特例法の施行は、当事者を大きく 3つに分けてしまったように思います。
性同一性障害を有する人は、性別適合手術を行って性別変更する方が全てではありません。私たちは、全国組織としてこうした様々な当事者の方がいることを念頭に、多方面にわたって活動を続けていかなければなりません。そのため、総花的にはなりますが、本年度については以下の項目について活動を行うことを方針といたします。
また、これらを実現するための具体的な活動内容を以下とします。
昨年に引き続き、厚生労働省・外務省・総務省・地方自治体などに対して陳情書・要望書を出して行きます。また、そのフォローアップを充分に行っていきます。
性別変更の申し立て数や地方自治体の対応状況など、各種調査を定期的に行っていきます。 特に、特例法の要件撤廃に向けて、様々な事例や声を収集することが大切です。
今年もフォーラムやワークショップを定期的に開催し、世論に対してアピールを行うと同時に、自分たちの勉強にも資します。今年は特に大規模なフォーラムではなく、勉強会も兼ねた小さいイベントを継続的に行って行くことをめざします。
GIDに対して理解のある国会議員・地方議員と定期的に会合を持ち、この問題に対する意識を持ち続けていただけるよう努力いたします。特に特例法成立時には、3年後の改正に向け定期的な会合の場を持つことが提唱されていましたので、ぜひとも実現するよう努力いたします。
最近は取材や番組への協力要請も多く入ってきており、機会のある毎にこの問題を訴え続けていきます。
特例法の性別変更要件の緩和などGIDに関する施策に関し、地方自治体に対して意見書を議決してもらえるよう、引き続き要望していきます。また、有識者や医療関係者などにも論文の発表や意見表明などで支持を訴えていただけるよう働きかけていきます。そして、日本精神神経学会をはじめ、関連諸団体からも要望書を提出していただけるよう求めていきます。
来年1月には申請ができるよう、書類の整備など必要な準備を進めて参ります。
地方に広がる会員のフォローをより円滑に行えるよう、地方組織のあり方を検討します。 手始めに、北海道をモデルケースとして、組織化を考えていきます。
HP・活動報告書などの広報を充実させ、世論へのアピールにつなげます。また、様々な資料の整備を行い、陳情や会員の活動をフォローします。
GID当事者団体だけでなく、同性愛の団体などセクシュアルマイノリティ関連、男女共同参画社会関連などで、連携可能な関連他団体との交流を広めていきます。
助成金の申請など収益事業を考慮し、会の活動が円滑に行えるよう資金面での施策を検討していきます。
HP上に会員専用ページを本年度中に開設し、会員間のコミュニケーションが円滑に進むよう図ります。また、陳情や裁判など会員が活動を行う際には、可能な限りバックアップしていきます。
これらを実現するために事務局の機能を強化します。世話人の選任を含め、有機的に動ける体制作りを行います。
以下、内容について説明いたします。
特例法の要件である「現に子がいないこと」は即時撤廃、その他の要件も撤廃または緩和に向けて活動していかなければなりません。まずはそれぞれの要件について、検討していきます。
これについては、もう議論の余地はないでしょう。とにかく3年後と言わず即時撤廃を求めて強く訴えていきます。ただ、この問題の解決方法として「子が同一戸籍にない」「子が成人している」「子の同意がある」などの条件を付加される可能性があります。このような新たな条件が付いてしまわないためにも、今後の課題として、無条件での要件撤廃が必須であるというエビデンス(根拠)を構築していかなければなりません。そのための基礎資料として、子どもがいる当事者の方が置かれている現状の調査、特に性別が変えられないことによって、本人とその子供にとって、どのような不利益があるのか、具体的事例をまずできるだけ多く集めていきます。
この要件は、同性婚になってしまうことを避けるために設けられた規定です。従って、同性婚が認められればこの要件は削除されることになります。そのために、同性婚実現に向けて、私たちもどのような活動を行ったらよいのか、検討を始めなければなりません。もちろん当事者のなかには、この要件を特例法の範囲内で解決しようとする動きもあります。しかしながら、その考えは性同一性障害に限って結果として同性婚状態になることを認めて欲しいという主張と変わらず、支持できません。同性婚の実現は、同性愛の方を始め多くの方が望んでいます。そうした方々のことは省みず、自分達だけが認められればよいという考えでは、世論で支持を得ることができるとはとても思えませんし、また、例えばMTFと女性、FTMと男性のカップルがいたとして、同性婚ではなく特例法の非婚要件の撤廃のみが行われた場合、これらのカップルは先に結婚をしてから性別変更を行うと結婚が認められるのに、性別変更を先に行ってしまったら結婚できないというような矛盾も生じるからです。性同一性障害の同性婚状態をまず認めさせて、それを同性婚成立の足がかりにしようとする考えもあるようですが、逆説的に言えば足がかりになってしまうからこそ、同性婚反対論者は反発を強めるでしょう。ですので、「現に子がいないこと」の撤廃と「現に婚姻していないこと」の2つの要件を同時に持ち出すことは、「現に子がいないこと」という要件を撤廃するための足かせになってしまいかねず得策とは言えません。それよりも、「現に婚姻していないこと」の要件を撤廃するには、やはり正攻法で同性婚を認めさせる方向で動くべきです。ただ、はじめから同性婚の実現は難しいでしょうから、次善の策としてDP法の制定やPACS(民事連帯契約)制度の導入を検討するべきです。しかしながら、私たちは同性婚に関してはまだまだ勉強不足です。そのために、同性愛の団体の方とも交流を深めながら、どのように運動を行っていけばよいかをまず考えていこうと思います。
特例法でいう「近似した性器の外観」要件は、現時点での社会での受け入れ、理解から考えると致し方のない部分があるように思います。特に女性は痴漢や覗き、盗撮といった性的被害の危険に常に晒されているという現状もあり、まだまだ理解を得るのは難しいと考えられます。しかしながらその「近似した」という点から考えて、どこまで「近似していればよいのか」という点はあまり明確ではありません。例えばMTFに関しては言えば、造膣というのは必要とされない方もおり、これを行わないと膣狭窄も起きず、術後のケアが大変楽になります。また、FTMに関しては説明会などを通してミニペニスの形成が必要とされています。しかしながら、FTMに関しては手術が難しいこと、その結果も必ずしも満足ができるものではないこと、費用も高いことなどから手術を行わないという選択をされる方も数多くいます。また、女性とくらべ、男性は受け入れる側としても性器の形状にはそんなにこだわりは少ないようにも思います。そうしたことを考えると、FTMに関してはミニペニスではなく肥大化したクリトリスでも外観上問題ないとしてよいのではないでしょうか。こうした改正は、厚生労働省令の通達で行うことができますので改正も簡単です。できるだけ多くの人が性別変更できるように、この改正を訴えていく必要があるでしょう。
現在申請数が非常に少ない原因の一つに、医師の診断書がなかなか書いてもらえないという事情があります。現在申し込んでも半年以上先になることもあるようです。しかし、セカンドオピニオンまで取得している人に関しては、わざわざ診断書を書き直してもらわなくてもそのオピニオンには裁判用診断書に書かれていること以上の情報が盛り込まれています。そのため、オピニオンなど詳しい診断書があればわざわざ申し立て用の診断書を記載してもらう必要はないわけなので、こうしたもので代替えできるように求めていくことが必要と考えます。
以上、これらを実現するために、「要件撤廃に向けて国会議員および法務省における検討委員会の設置」を求めていく所存です。私たちの要望を実現するために、3年後の改正に向けて検討委員会で今からきちんと議論を積み重ねて行く必要があると思います。
保険適用の問題やGID治療のできるクリニックの拡充は、昨年に引き続いて継続して訴えていく必要がある重要項目です。また、これについては「オピニオンさえあれば、世界中どこの医療機関でもSRSできる」という案も検討されているようであり、ガイドラインの改訂と併せて注視していく必要があります。また、厚生労働省については、就労差別撤廃についても重要な問題です。特に、性別変更ができた人、できない人がそのことを理由として差別されないよう、強く求めていく必要があります。これらの施策を、厚生労働省および厚生労働委員会で取り上げてもらえるよう働きかけていきます。
これは、gid.jpの活動の原点であり、今までの活動の甲斐もあって、全国の地方自治体における性別欄削除はかなり進んできました。しかしながらまだまだ主要都市で性別欄が残っているところは多く残されています。再度全国主要自治体を調査し、主要自治体で漏れているところをピックアップし、要望を行う必要があります。また、全国市長会からも性別削除の要請が出されていることでもあり、総務省から全国の市区町村に性別欄を削除するよう通達を出してもらえれば更に効率よく進むと考えられます。特に印鑑証明書の性別欄は、旧自治省が昭和19年に出した印鑑登録証明事務処理要項に記載されたことから始まっているわけなので、この要項を再度出し直してもらえるよう要望を行います。 同時に総務省に関しては、国における性別欄の要・不要を検討していただけるよう要望していきます。
厚生労働省に対しては、昨年ハローワークにおける男女別求職票の扱いについて、秋にも廃止することで進めるとのことでした。ですので、その進捗をまず確認しなければなりません。また、せっかく男女別が廃止されたとしても性別欄が大きく残ったのでは意味がありません。あくまでも性別欄はモデルなどの男女別求職が必要な企業に応募する場合のみに記載の必要があるというようにしていかなければなりません。また、就職時に提出するJIS規格履歴書、高校様式履歴書からの性別欄削除も、引き続いて訴えていきます。
これについては、以下のようなスケジュールを考えています。可能な限り、タイムスジュールを守って進めていく所存です。
会員が順調に増え、すでに140名を越えました。またこれに伴って地方会員も増えています。こうした地方に広がる会員のフォローをより円滑に行えるよう、地方組織のあり方を検討していかなければなりません。手始めに、理事の存在する北海道をモデルケースとして、組織化を考えたいと思います。具体的な内容については、今後現地と相談して進めます。また、これによって、地方においてもフォーラムやワークショップを開催するなどの施策を実現していきます。更に、各地で活動している地元団体との連携を深めて参ります。
性別変更した人が増え、それが社会に自然と受け入れられ、幸せになってくれることが性同一性障害に対する理解を深め、更には3年後の改正に結びついていくのだという考えの元に、性別変更が可能な方をバックアップしていく所存です。また、変更を終えた人が、それによって差別を受けたり嫌な思いをしなくて済むようにしていくことも必要です。そのために、特例法の施行状況、申立数・許可数などの定期調査や変更が許可された方の事例収集を行っていきます。そして、「戸籍法施行規則 第39条9号の削除」と「住民基本台帳ネットワークにおける性別変更情報の削除」を求めていきます。この「戸籍法施行規則 第39条9号の削除」について、説明しておきます。今回の特例法では、性別変更が行われた場合、「平成15年法令第111号3条による裁判発行日」と「記録嘱託日」「従前の記録」として「父母との続柄」が記載されることになり、一目で性別変更が行われたことがわかってしまいます。もちろん戸籍には、過去との連続性を残すと言いう役割がありますから、致し方のない部分もあります。(つまり、昔は男だったまたは女だったということを立証する必要性がある場合もあるでしょうから。)また、性同一性障害に関しては、ある所までは男性(または女性)として生きてきたという事実があるわけなので、これを無視することはできません。ですので、戸籍のある局面で性別を変更したことが記載されてしまうのは、しかたがないことという側面は否定できないと思います。 それよりも問題は、転籍してもその事実が残ってしまうことです。例えば、名の変更も、変更したという事実はいつまでも残ります。これは、戸籍法施行規則第39条に定められています。この施行規則は、今までは8号までだったのが、今回の法務省令の改正(平成16年6月23日法務省令第46号)で第9号に以下が追加されました。
「九.性別の取扱いの変更に関する事項」
このため、いつまでも戸籍を変更したという事実が残ってしまいます。確かに、性別変更が行われたということを証明する必要がある場合もありますが、その場合は変更後の最初の除籍謄本を示せば事足ります。また、記録が残ると言っても、その記載は「平成15年法令第111号3条による裁判発行日」と「記録嘱託日」だけです。このような記載に意味があるとは思えません。
以上のような理由で「戸籍法施行規則 第39条9号」は、必要がないはずです。
これは、法務省令ですから、法務省の判断次第で削除は可能なはずですので、早急に働きかけを行う所存です。
次に、「住民基本台帳ネットワークにおける性別変更情報の削除」について説明します。
住民基本台帳ネットワークでは、現在本人確認情報として以下の6情報が定められています。
氏名・住所・生年月日・性別・住民票コード・そしてこれらの変更履歴です。
この変更履歴は5年間保存されることになっています。これが簡単にわかってしまったのでは、戸籍にわざわざ「平成15年法令第111号3条」と書いて性別変更を記載していない意味がありません。また、少し調べたところではこの変更履歴は確かに記載はされているものの、簡単にはアクセスできない情報のようです。であるならば、更に必要ない情報と言えます。今後住基ネットの活用範囲が拡大される可能性がないとはいえず、その際その情報が漏れないとも限りません。これからのためにも、今この項目は削除しておかなければなりません。
これについては、従来から進めてきた性別欄削除を更に推進すると共に、パスポートや住民票の性別欄の削除や変更など、いわゆる「中解決」の実現に向けて努力していきます。特にパスポートの問題は渡航される方には切実ですし、住民票などと違って他への影響が小さいと考えられるので、修正は比較的簡単のように思います。まずここを突破口として変更を実現できるよう働きかけていきます。
この場合、議論しておかなければならないのは「どのような人を許可するのか」という要件論です。
できるだけ門戸を広げるためにも「戸籍と異なった性でフルタイム生活している人」という程度とし、性同一性障害を条件にするべきではないと考えます。ただ、これだと判断基準が曖昧にはなります。しかし「名の変更」もほぼ同じような条件で判断が下されているとう実情がありますので、パスポートについても名の変更に準拠させることは可能ではないでしょうか。可能な限り低いハードルでパスポートの性別変更が実現できるよう、求めていく所存です。
以上、本年度の活動方針および活動内容といたします。
(起草 山本 蘭)
性同一性障害を抱える人々が、普通にくらせる社会をめざす会 理事会
代表(理事長) 山本 蘭
副代表(副理事長) 深井 理香
事務局長(理事) 藤崎 はるか
ほか理事6名
監事 立華 レイカ
ほか監事1名