性同一性障害に関する施策実現のための要望書2013|内閣総理大臣

性同一性障害に関する施策実現のための要望書2013|内閣総理大臣

Posted by jimukyoku 日時 2013/04/23

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2013年4月23日、一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会は、内閣総理大臣に対し、性同一性障害に関する施策実現を求める要望書を提出しました。
提出した要望書の内容をみなさまにお知らせします。


内閣総理大臣 安倍 晋三 様

【要望の要旨】

  1. 性同一性障害に関する様々な問題の更なる解決に向け、政府として取り組んでください。
  2. 性同一性障害の問題は、法律・人権・医療・労働・教育・総務・外務、等多岐にわたっています。政府としてとりまとめ、担当する部署を作ってください。
  3. 性同一性障害治療の身体的治療に対して、健康保険を適用してください。
  4. 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立して今年で10年になります。「現に未成年の子がいないこと」など不必要な要件を削除してください。
  5. 性同一性障害当事者の就労環境を改善してください。
  6. 戸籍や基礎年金番号から、性同一性障害であることがわかってしまう差別的取扱いを止めてください。
  7. 児童生徒の性同一性障害当事者に対する早急な対応をお願い致します。
  8. その他、各省庁に対する要望をまとめてありますので、これらの施策の実現をぜひお願い申し上げます。

【要望の理由】

平素は、性同一性障害の問題にご尽力いただき、心より御礼申し上げます。
私たちは、全国に1150名の会員を有する性同一性障害の当事者団体です。

性同一性障害とは、身体上の性、社会生活上の性と精神の性が一致しないことにより、多大な苦痛・苦悩を有する状態のことをいいます。岡山大学の最近の調査においては、性同一性障害により、不登校を経験した者24.5%、自殺を考えた事がある者が68.7%、自傷・自殺未遂経験者は20.6%と有意に高い数字を示しています。

平成15年7月には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し、一定の条 件を満たす者につき、戸籍の性別の取扱いの変更の申し立てが可能となり、また、平成20年6月には改正が行われ、昨年末までに性別の取扱いの変更を行った者は3584名に達しました。これも、首相を始め政府のみなさまや国会議員のみなさまにご尽力いただきましたおかけであり、深く感謝申し上げます。

しかしながら、特例法の成立、改正だけで、私たちの問題がすべて解決したわけではありません。性同一性障害の当事者は3万人以上はいるといわれ、性別の取扱いの変更ができた人はそのうちのわずかに過ぎません。性同一性障害に関しては、この戸籍の性別の取扱いの変更以外には社会支援策は講じられていず、まだまだ多くの当事者が差別や偏見により苦しい状況におかれています。

そのため、私たちは各省庁・大臣に対して様々な要望を出していますが、ほとんど対応は進んでいません。これも政府の中にこの問題を扱う専門の部署が無いことも原因の一つであるように思います。次ページに、各省庁に出している要望を列挙いたしましたが、このように多様な問題がまだまだ未解決のまま残っています。

特に、性同一性障害の治療における身体的治療に対する健康保険の適用は急務です。性別の取扱いの変更を行うためには、生殖腺の除去などの性別適合手術が義務づけられていますが、健康保険が適用されていないため、多額の費用が必要とされます。一方、性同一性障害の当事者は、性別の記載が問題となって就労がままならず、アルバイトや非正規雇用の者も多く、不安定な生活を余儀なくされています。このため、手術に対する金銭的負担は、非常に重いものとなっています。性同一性障害の身体的治療に対する健康保険の適用と、就労環境の早急な改善が望まれます。

また、性同一性障害特例法の成立から今年でちょうど10年、改正からも5年が経過致します。特例法では、その附則3に「性同一性障害者の性別の取扱いの変更の審判の制度については、この法律による改正後の性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の施行の状況を踏まえ、性同一性障害者及びその関係者の状況その他の事情を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。」と規定されています。 本法律は、成立当時より懸案な項目があり、10年を期にぜひ再改正をお願いいたします。特に「現に未成年の子がいないこと」要件は、早急な削除が望まれます。

更に、現在、性別の取扱いを変更した場合、戸籍に「平成15年法律第111号3条による裁判発効日」の記載が、転籍などを行っても移記されてしまい、いつまでも消えません。また、基礎年金番号についても新たな番号が付番されるなど、これらの書類をみただけで性別の取扱いの変更を行ったことが判ってしまう事態となっています。これは性同一性障害の当事者に対する差別的取扱いであり、早急な改善が必要です。

児童生徒に対しては、昨年日本精神神経学会が「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」第4版において、第2次性徴を抑制する治療と、条件付きながら望みの性でのホルモン療法 を15歳から認める旨の改訂を行いました。この改訂ガイドラインにより、既にホルモンを投与した当事者が通学し始めています。しかるに、教育現場での対応はほとんど進んでいません。逆に、学校側からホルモン療法は行わないようにという指導がなされた例さえも存在しています。この問題は、待ったなしのところまで来ており、このまま放置できません。

以上、多くなりますが、ぜひご検討をいただき、この問題の更なる解決に、ご助力いただきたくお願い申し上げます。

<各省庁への要望事項>

厚生労働省

  1. 手術療法およびホルモン療法に対する健康保険の適用。
  2. 労働環境改善への施策の実施。
  3. 性別の取扱いの変更後、基礎年金番号を新たに付番する対応を止める。
  4. 健康保険証の性別記載を、現在の身体の状態に合わせる。
  5. 精神障害者保健福祉手帳から、性別欄を削除。

法務省

  1.  性同一性障害特例法第3条1項3号の「現に未成年の子がいないこと」条文の削除。
  2. 性同一性障害特例法第3条1項2号の「現に婚姻していないこと」条文の削除。
  3. 結婚や転籍などにより新戸籍が編制されても、戸籍の身分事項に必ず記載されてしまう 「平成15年法律第111号3条による裁判発効日」の記載の削除。
  4. 女性から男性に性別の取扱いを変更した当事者が、戸籍変更後に婚姻してできた妻の子は、 嫡出子として扱う。
  5. 被収容者への処遇の改善。(ホルモン療法の継続など)

文部科学省

  1.  現状の実態調査。
  2. 医師や教育関係者、研究者、当事者などを交えた検討委員会の設置。
  3. 教育機関における、当事者の受入に関する指針を策定。
  4. 教員など教育関係者に対するマニュアルやガイドブックの作成。
  5. 教員など教育関係者に対する性同一性障害に関する研修の実施。
  6. 専門の研修や訓練を受けたスクールカウンセラーの派遣。
  7. 児童生徒に対して性同一性障害に関する正しい知識の教育。
  8. 学校において、児童生徒が気やすく相談や支援を受けることができる環境の整備。
  9. 性同一性障害当事者の教師の積極的な活用。
  10. 文部科学省あるいは教育委員会などに、各校を指導・支援する体制作り。
  11. 同性愛など他の概念と一括りにするような教育や施策は行わない。

総務省

  1.  公文書からの不要な性別欄の削除。
  2. 印鑑登録証明書事務処理要項を改訂し、「男女の別」を削除。
  3. 住民票の写しの性別欄記載を選択制に。
  4. マイナンバー(個人番号)カードから性別欄を削除。
  5. 担当者が確認する選挙人名簿からの性別欄削除と、投票所入場整理券から性別欄の削除。投票所における男女別投票率の集計につき、本人や周囲の者にわからないように配慮。

外務省

  1. 旅券に記載する性別は、少なくとも身体の状態に合わせた性別表記とする。
  2. パスポートの性別欄に、MとFだけでなく国際民間航空機関(ICAO)でも認められている「X」記載を選択できるようにする。

平成25年4月23日
一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会
代表 山本 蘭