性同一性障害の当事者が、普通にくらせる社会環境の整備を求める要望書2013|福島県議
2013年4月5日、一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会は、福島県議に対し、性同一性障害の当事者が、普通にくらせる社会環境の整備を求める要望書を提出しました。
提出した要望書の内容をみなさまにお知らせします。
福島県議会議員のみなさま
【要望の要旨】
- 福島県が発行する証明書や申請書などから可能な限り性別欄を撤廃してください。
- 福島県の職員や外郭団体の職員などへの研修や講演会の実施と理解の促進をお願い致します。
- 福島県下の公立病院で、性同一性障害医療(精神科、ホルモン療法など)を行ってください。また、福島県立医科大附属病院で、現在行われている性同一性障害の治療を充実させてください。
- 県庁や、精神保健福祉センターあるいは産業保健推進センターに性同一性障害に関する相談窓口を設置してください。また、その担当者に対する性同一性障害に関する講習や研修を実施してください。
- 性同一性障害や強い性別違和を持つ児童生徒に対する配慮や施策を実施してください。
*福島県下の小・中・高各校における現状の把握。*当事者が存在する場合のスムーズな受け入れと対応。*教員・教育委員会など教育関係者に対する性同一性障害に関する研修の実施。*専門の研修や訓練を受けたスクールカウンセラーの派遣。*児童生徒に対する性同一性障害に関する正しい知識の教育。*学校において、児童生徒が気やすく相談や支援を受けることができる環境の整備。など
- 震災で被災し、就職がままならない当事者に対する医療費の補助や就業の斡旋を行ってください。
- 今後更なる震災が発生した場合、避難所等での入浴や更衣所などの利用、ホルモン剤の入手など、当事者に配慮した体制作りをお願い致します。
- 国に対し、以下の意見書を提出してください。
*性同一性障害の身体的治療に対する健康保険の適用*印鑑登録証明書事務処理要項を改定し、性別欄を削除。*住民票の写しから、性別欄を省略可能に。*性別の取扱いの変更後、戸籍に記載される「平成15年法律第111号3条による裁判発効日」の記載を、結婚や転籍などで戸籍が移動した際に移記しないこと。*女性から男性に性別の取扱いを変更した当事者と婚姻した妻がAIDを用いて出産した子どもを嫡出子の扱いとすること。*性同一性障害特例法の「現に未成年の子がいないこと」「現に婚姻していないこと」条文の削除。
【要望の理由】
平素は、性同一性障害の問題にご尽力いただき、心より御礼申し上げます。私たちは、全国に1150名の会員を有する性同一性障害の当事者団体です。福島県にはいわき市に南東北支部があり、県内で約50名の会員が所属しています。
性同一性障害とは、身体上の性、社会生活上の性と精神の性が一致しないことにより、多大な苦痛・苦悩を有する状態のことをいいます。岡山大学の最近の調査においては、性同一性障害により、不登校を経験した者24.5%、自殺を考えた事がある者が68.7%、自傷・自殺未遂経験者は20.6%と有意に高い数字を示しています。
平成15年7月には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し、一定の条件を満たす者につき、戸籍の性別の取扱いの変更の申し立てが可能となりました。その結果、昨年末までに性別の取扱いの変更を行った者は3584名に達しました。
しかしながら、この特例法だけで、私たちの問題がすべて解決したわけではありません。性同一性障害の当事者は3万人以上はいるといわれ、性別の取扱いの変更ができた人はそのうちのわずかに過ぎません。性同一性障害に関しては、この戸籍の性別の取扱いの変更以外には社会支援策は講じられていず、まだまだ多くの当事者が差別や偏見により苦しい状況におかれています。特に東日本大震災の発生で、福島県在住の性同一性障害当事者は大きな打撃を受けました。
性別の取扱いの変更前の当事者にとって、公文書における性別欄の存在は、大きな苦痛になっています。これを改善すべく、地方自治体では、東京都小金井市、埼玉県新座市、鳥取県鳥取市をはじめ、200以上の自治体が、印鑑登録証明書や選挙時の入場整理券など自治体で可能な公文書からの性別欄廃止を実施しました。 また、全国市長会が取りまとめた平成16年度国の施策及び予算に関する要望の中には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例について法整備がされたところであるが、引き続き、法令等で定める公文書について、性別記載の廃止を進めるべくその様式の改善を図ること。」との要望がなされています。 しかるに、福島県および県下の市町村では対応がほとんど進んでいません。
教育機関においても、当事者である児童生徒は制服に嫌悪感を示し、それが元で不登校になる者がいます。また、トイレや男女別施設の利用、男女別グループの作成、修学旅行など、学校生活における様々な局面において苦痛・苦悩を感じており、思春期という、人生の中でもっとも多くの経験をし、一番成長しなければならない時期に、自然に確保されている条件が満たされず、本来の発達が困難になっています。 文部科学省は平成22年4月23日に「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」の事務連絡において、性同一性障害の児童生徒に対して「児童生徒の心情に十分配慮した対応をお願いします。」との通知を行い、昨年日本精神神経学会は「性同一性障害に関する診断と 治療のガイドライン」第4版において、第2次性徴開始後にそれを抑制する治療と、条件付きながら望みの性でのホルモン療法を15歳から認める旨改訂を行いました。これはホルモン治療を開始した当事者が通学してくることを意味し、対応は待ったなしです。
また、性同一性障害の当事者で、戸籍の性別の取扱いの変更を行っていないものは、就業に大きな困難を伴います。外見と戸籍上の性別が異なるためです。このように平常でも就業が困難であるのに、震災で職を失った者は再就職が一層困難となり、治療もままならない程生活が困窮する者も出ています。ぜひ、被災した当事者に対して、性同一性障害に関する医療費の補助や就業の斡旋、行政での雇用などの支援をお願いいたします。
更に、震災当時、避難場所に避難しようにも、入浴や更衣所の利用などに難があり、簡単には利用できない状況にありました。性同一性障害の当事者にとって欠かせないホルモン剤の入手も一時困難に陥りました。こうした状況は、生存にかかわるものです。今後、更なる震災が発生した場合でもスムーズに避難が行えるよう、当事者に配慮した体制作りを切にお願いいたします。
ぜひご検討をいただき、性同一性障害の当事者が差別や偏見を受けることなく、普通に生活できる社会環境の整備にむけて、ご助力いただきたくお願い申し上げます。
平成25年4月5日
一般社団法人gid.jp日本性同一性障害と共に生きる人々の会
代表 山本 蘭
南東北支部長 千葉 碧