年少の性同一性障害当事者に対する性ホルモン抑制のための抗ホルモン治療に関する声明
このたび、大阪医科大学ジェンダークリニックにおいて性同一性障害と診断された小学6年生の当事者に対し、第二次性徴の発現を遅らせることを目的としてLHRHアゴニストによる治療が開始されることが新聞等で報道されました。
全国に900名の会員を有する性同一性障害の当事者団体である「一般社団法人 gid.jp 日本性同一性障害と共に生きる人々の会」は、この決定に対し敬意と歓迎の意を表します。 性同一性障害とは、身体的・社会的な性別が人格に適合しないために強く苦悩する状態です。年少の性同一性障害の当事者にとって、第二次性徴は望んでいない性別に向かう身体変化であるため、大変な苦痛をともないます。
しかも、この思春期に始まる不可逆的な身体変化がいったん起こってしまうと、その後に性別移行をすることがとても困難となることが多いのです。
もちろん思春期前の当事者は精神的発達の途上にあり、どのような性の在り方が自分の人格に適合しているかがまだ確定しているとはいえません。そのため、LHRHアゴニストなどの抗ホルモン剤を用いて第二次性徴を遅延させ、本人の精神的な性別が確定するための時間的猶予が与えられることは大変意義あることになります。
しかしながら、この治療法の有効性と安全性はまだ十分に確立されているとはいえず、今後、これらに関するデータの蓄積や、精神医療および教育現場を中心としたサポート体制の確立が望まれます。
もちろん、年少の性同一性障害の当事者がすべてこの治療法の適応になるとは限らないため、当事者の個別性に対するきめ細やかな配慮が必要です。たとえ年少であっても当事者自身の意思を尊重するのはもちろんのことです。
当然のことながら、第二次性徴の遅延を目的とした抗ホルモン剤の投与はそれのみで完結する治療とはなりえず、それは医療・心理・教育・行政などの多職種の専門家による支援と治療の一環として行われるべきものです。
そして、そのようなサポート体制のもとで、望む性でのホルモン治療や性別適合手術の年齢制限の緩和についても検討される時期に来ていると考えます。
今後、抗ホルモン剤による治療が適切なサポート体制のもとでわが国の医療機関で広く行われ、多くの当事者が苦痛から救われるようになることを希望いたします。
副代表 上野 柚季恵
理 事 松永 千秋
理 事 飯塚 裕人
監 事 梅宮 れいか